2010年2月6日土曜日

平将門伝奇考・16 坂東の虹-Ⅰ

 最初に、史実を簡単に紹介した。
最後に、私の考えを加えた平将門の生涯を再び追ってみよう。

 天武天皇の曾孫・高望王は、藤原北家が台頭し、出世の望みがなくなった都を捨て、上総介として東国に下る。
この時、「朝敵を平らげる」意味で賜ったのが平の姓である。

 高望王の、都では役にたたない血筋も、まだ未開の関東においては、地方豪族の娘婿として敬われた。
反乱の絶えなかった東国の秩序維持にも、それは役立ったであろう。
蛮族と呼ばれた蝦夷にも、一目おかれたであろうことは想像に難くない。
こうして、平一族は関東においての地盤を固めて行くことになる。

 さらに、高望王の子であり、将門の父である良持は鎮守府将軍の職についている。
狩猟民である俘囚などの反乱を鎮圧する戦いで、皇族であった平一族は、軍事貴族へと変貌を遂げて行く。
これが、武士の祖である。

 平小次郎将門は、平一族が東国での地位を確立した10世紀初頭に生まれる。
しかし、正確にはいつどこで生まれたかは不明である。
将門は、良持の死後、母方の下総北部の猿島郡・豊田郡という広大な領土を受け継いだ。
あるいは、傍流の血筋であったのかも知れないと私は想像している。
領地を巡る叔父たちとの対立もそのあたりに端を発するのではないだろうか。

 蝦夷や俘囚は反乱するばかりではない。
都では人と認められない彼らは、壮大なフロンティア坂東における、将門の配下でもあった。
将門は彼らを使い、湿地が主であった領地に広大な放牧場を作り、馬の生産による財力を蓄えた。
同時に、牧の片隅に製鉄場を作り、武器や農具・馬具を生産する。
将門の騎馬軍団はこうして力を蓄えて行く。

 やがて、彼は官位を求め都に上る。
検非違使の尉という管理職を求めた将門は、願い空しく禁中護衛の職しか得ることが出来なかった。
彼の主人にあたる藤原忠平も、彼の人柄を認めながらも間接的にその要領の悪さを示唆している。
上手く賄賂が贈れない。 貴族としての雅な付き合いが出来ない。
おそらく、そのようないささか武骨な人物であったのではないだろうか。

 下向した将門を待っていたのは、叔父たちとの領地を巡る争いであった。
この時代の関東は、領地や利権を巡る争いが頻発する、一種の無法地帯の様相を呈している。
その中で、将門はかなり有力な地方豪族であったようだ。

 将門が三十六歳の時に、武蔵国に新しい国司が赴任する。
権守(ごんのかみ)興世王と介(すけ)の源経基である。
(実質的な地方長官と副長官と考えてもらえば良い)

 彼らは、視察の名目で貢物を集めようとするのだが、これに対して地元の武蔵武芝は「慣例にない」事を理由に待ったをかける。
それでも「視察」を強行した興世王・経基との衝突を恐れた武芝は山野に身を隠す。
 興世王たちは、武芝の屋敷を襲って金品を強奪するという行為に出る。
武芝は返還要求するが、逆に興世王たちは兵を向ける。

 ここに将門が登場し、この仲裁に入ったのだ。
無位無官の将門が、朝廷の定めた地方責任者の争いを仲裁する。
これは、この地方における将門がいかに有力であったかを物語っている。
さらに、将門が公正で単純な正義感の持ち主であった事を窺わせる。

 将門の仲裁により、興世王と武芝は和解した。
ところが、経基は武芝の屋敷を包囲するという暴挙に出た。
その後、将門・興世王・武芝連合を恐れて都に駆け戻り、何とこの三者が朝廷に対して謀反を起こしたと訴え出る。

 何ともあきれ果てた話である。
しかし、この容疑は、将門が常陸・下総・下野・武蔵・上野の五か国の国府から「謀反人にあらず」という証明書を出してもらい都に送りつけたことで晴らされることになる。
このことからも、将門の実力と人がらが広く認められていた事がわかる。

 親分肌の人間で、人々から慕われていたのであろう。
しかし、その事がこの後の悲劇へと結びついて行く。


 

2 件のコメント:

mokko さんのコメント...

あぁ~真直ぐで人からの信望も厚いのに
何でぇ~と思わずにはいられない
わかるけど・・・
なんか読んでいるうちに、今まで思っていた
将門のイメージが随分と変わってきました
良いことなのか?
でもキャラ的に、前より好きかもしれない

ただ恐ろしい呪いの主だと思っていたけど
いやぁ~お勉強になりますぅ~

次は悲劇・・・あぁ~辛いわぁ~

miroku さんのコメント...

mokkoさんへ

この章はどうしようかと考えたのですが・・・。
最初と重複する部分もあってくどいかなとも思いましたが、あえて私の見えた歴史を書いてみようと思いました。
う~ん、こうやって色々調べて書いていると、本当に将門の素顔が見えてくるような気がします。
細かい部分を調べて、将門の物語を紡いでみたい気さえしますね。